釉薬のはなし

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目次


七宝釉薬の主成分

  1. 硅石:   発色を左右するので純度99%以上の、上質なものを使っている。
  2. 鉛丹:   金属への密着を良くする。屈折率をたかめる。
  3. 硝酸カリ: 発色、色調を良くする。
  4. 炭酸ソーダ:ガラス質の透明度を良くする。
  5. ほう砂
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素地としての金属

素地として使用できる金属は、金、銀、銅、丹銅などです。 金は18金以上の純度のもの、銀は純銀、銅は純銅を用います。丹銅は、九一丹銅と言って、銅90%亜鉛10%の割合の合金を用います。 不純物の多い金属は発色が悪く、使えません。ですから、真鍮などには焼きつきませんし、また鉄にも焼付けは出来ません。アルミニュームは、以下の表のとおり七宝釉薬の軟化度よりも融点が低いため、使えません。

金属の融点

金属名融点金属名 融点
純金1.065℃丹銅1.000℃
純銀960℃1.350℃
純銅1.083℃アルミニューム658℃
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透明釉薬の適温表

色系統色名顔料軟化度適温(℃)
白透白透なし680℃780〜900
赤透桃透、中赤、金赤、本紫等700℃ 800〜850
青竹青竹、青透、エメラルド等酸化銅680℃ 800〜900
紺青A紺,C紺,H紺等酸化コバルト700℃ 750〜900
紺水水紺、紺水、水透等酸化銅、酸化コバルト680℃700〜900
墨透、黒等混合700℃750〜900
赤紫、藤紫等二酸化マンガン700℃ 750〜900
金色、金茶、ウス茶、濃茶等酸化鉄700℃ 780〜850
その他700℃800〜900
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透明色 各色の特長

  1. 白透:    色止め効果を持つ。(銅の赤味をある程度消し、地金と釉薬との反応を防ぐ。)
  2. 赤系統:   焼成温度が高すぎても低すぎても色が腐る。短時間焼成が好ましい。焼けば焼くほど色が黒ずんで悪くなる。
  3. 《赤系統の発色原理》
    赤系統の釉薬には、釉薬中に金の分子が微粒子として分散している。焼成時にはこの分子が大きくなり成長するが、成長した段階で肉眼で見える赤となる。従って、この微粒子が同時に成長し、揃った大きさになると発色が良いし、また、低温或いは高温の場合は分子成長が不揃いとなり、発色が悪くなる。
  4. 青竹系統:  低温焼成すると表面に黒い膜が出来る。これは釉薬中の顔料(酸化銅/CuO)のパーセンテージが多いため、CuOが鉛等と反応して上層釉薬に酸化銅皮膜が出来るためである。ウス青竹のように薄い色の場合は、CuOのパーセンテージが低いためこの現象は起こらない。青竹系統のしかも濃い色は、高温焼成すべきである。
  5. 紺青系:   顔料の分量単位でA,B,C・・・と、b付ける。酸化コバルト(コンゴorアメリカ産)は非常に濃く発色するため顔料の使用分量が微量であり、安定している。
  6. 黒系統:   各顔料の混合によって作る。安定している。
  7. 紫系統:   二酸化マンガンを原料としている。安定している。
  8. 金茶系統:  顔料である酸化第二鉄(べんがら)を多く使うので不安定である。従って中温で手早く焼成しないと緑がかった腐った色になる。これは、酸化第二鉄が酸化第一鉄に還元するためである。
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不透明釉薬の適温表

色系統色名顔料軟化度適温(℃)
亜砒酸、錫700℃800〜900
黄、クリームクロム700℃750〜850
青芝、特青、オリーブ酸化銅700℃ 800〜850
朱赤朱赤、赤橙、オレンジセレン朱680℃ 750〜800
桃、特桃700℃750〜800
空、濃空、紺酸化コバルト700℃800〜900
カバ茶、トビ茶チョコレート色素700℃800〜900
その他トルコ青、ウスグレートルコ色素700℃800〜900
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不透明色 各色の特長

  1. 白:    熔けにくいが熔けてしまうと分解し反応が起き易くなり、緑や灰色になったり透明になったりする。不透明各色の基本である。
  2. 黄系統:  顔料であるクロムは焼成しすぎるとクロム酸になり、緑色に変色する。白よりさらに焼成が難しい。
  3. 緑系統:  黄色味の強い色にはクロムが混入されている。緑味の強い色、即ちCuOの多い色の場合は低温で焼成すると酸化銅被膜が出来て黒くなる。
  4. 朱赤系:  顔料はセレンカドミュウムである。このセレン朱は鉛とは合わないので母体となるガラス質は硼硅酸ソーダをベースにした無鉛ソーダ系である。アルカリ性であるため、非常に酸に弱く、酸に浸けると白くなる。セレンが分解するため低温で手早く焼成する。従って多色盛の場合は最後に施釉するか、又は、二度、三度の焼成予定の場合は生焼けにとどめておく。
  5. 桃、スミレ系統:金(Au)を顔料としているため変色しやすく赤味が紫〜青味がちになる。手早く焼成する必要がある。
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銀用釉と、銅用釉の相違点

銀用釉は銀素地に使うもの、銅用釉は銅素地に使うものと、勘違いして思い込んでいる人が沢山います。しかし、それは、正しくはありません。ほとんどの場合、銀素地に銅用釉を使っても、その逆でも、ちっとも差し支えはありません。

では、銀用、銅用の区別は一体何のためにされているのでしょうか。それは、「耐酸性の問題」です。

釉薬の性質の中で、屈折率を良くすることと耐酸性を高めることとは、決して両立しない相反する性質なのです。

屈折率を良くしようとすると必然的に耐酸性は弱くなるし、耐酸性を高めれば屈折率は落ちてしまうのです。従って、焼成しても酸化することのない銀素地の場合は「酸で洗う必要がない」ため耐酸性を抑えてその代わりに屈折率を良くしてありますし、酸化する銅素地の場合は、「酸洗いする必要が生じるため」に屈折率を犠牲にしても耐酸性を高めておく必要があるのです。ですから、私達が釉薬を選ぶ時に必要な注意は、「酸洗いをするかどうか」だけなのです。酸洗いする必要のある技法を使う時には、銀用釉は絶対に使わない、と、それだけ注意してくださればいいのです。

ただし例外もあります。それは、白透です。銀素地の上に銅用白透を用いると釉薬中の残留アルカリ分が銀と反応して淡い黄色の濁りを生じます。銀素地上で完全な透明を得るためには、銀用白透を使わなければなりません。

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銀と反応して変色する釉薬

釉薬の中には、銀と化学反応を起こして変色してしまうものがあります.

上記の白透もそのひとつですが、その他に、中赤透などの赤系の色、桃透などのピンク系の色、橙透などのオレンジ系の色などです.また、金茶・ゴールドなどのような茶系の明るい色や、ゴールドブルーなど、温度によって又は焼成回数によって変色するものもあります.また、半透明色は銀と反応する色が多いようです.

これらの釉薬を銀に焼き付ける場合は、銀素地と釉薬が直接触れないようにしなければなりません.一旦、反応しない色釉薬を焼き付けた後に反応する色を上からかけて焼成します.例えば、銀用白透などをあらかじめ焼成して、その上から桃透などを盛り付けて焼成するわけです.

この場合、針の先程のピンホールが合っても化学反応は起こってしまうわけですから、下地は丁寧に作らなければなりません.


終りに

七宝は簡単な焼き物として普及しています。確かに素地が金属であるために、焼成時間も短く、徐冷しなくても割れる事もなく、そういった意味では初心者でもそれなりのものをその日の内に作り上げることができる手軽さがあります。
しかしそのために、逆に、知識を持たないままに取り組んでいる人も多いのが現実となっています。けれども当然七宝も焼き物であり、工芸である以上、火を通す事によって起きる化学変化、物理変化とは無縁ではいられません。
正しい知識を持つことが、よりよい作品作りへの第一歩となるはずです。
ここでは、最低限の釉薬に関する覚えておくべき事を述べてみました。正しい知識を身に付けることでそれぞれの作品世界がより広がりを見せる、そのための一助となれば幸いです。


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