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素地として使用できる金属は、金、銀、銅、丹銅などです。 金は18金以上の純度のもの、銀は純銀、銅は純銅を用います。丹銅は、九一丹銅と言って、銅90%亜鉛10%の割合の合金を用います。 不純物の多い金属は発色が悪く、使えません。ですから、真鍮などには焼きつきませんし、また鉄にも焼付けは出来ません。アルミニュームは、以下の表のとおり七宝釉薬の軟化度よりも融点が低いため、使えません。
金属名 | 融点 | 金属名 | 融点 |
---|---|---|---|
純金 | 1.065℃ | 丹銅 | 1.000℃ |
純銀 | 960℃ | 鉄 | 1.350℃ |
純銅 | 1.083℃ | アルミニューム | 658℃ |
色系統 | 色名 | 顔料 | 軟化度 | 適温(℃) |
---|---|---|---|---|
白透 | 白透 | なし | 680℃ | 780〜900 |
赤透 | 桃透、中赤、金赤、本紫等 | 金 | 700℃ | 800〜850 |
青竹 | 青竹、青透、エメラルド等 | 酸化銅 | 680℃ | 800〜900 |
紺青 | A紺,C紺,H紺等 | 酸化コバルト | 700℃ | 750〜900 |
紺水 | 水紺、紺水、水透等 | 酸化銅、酸化コバルト | 680℃ | 700〜900 |
黒 | 墨透、黒等 | 混合 | 700℃ | 750〜900 |
紫 | 赤紫、藤紫等 | 二酸化マンガン | 700℃ | 750〜900 |
茶 | 金色、金茶、ウス茶、濃茶等 | 酸化鉄 | 700℃ | 780〜850 |
その他 | * | * | 700℃ | 800〜900 |
《赤系統の発色原理》
赤系統の釉薬には、釉薬中に金の分子が微粒子として分散している。焼成時にはこの分子が大きくなり成長するが、成長した段階で肉眼で見える赤となる。従って、この微粒子が同時に成長し、揃った大きさになると発色が良いし、また、低温或いは高温の場合は分子成長が不揃いとなり、発色が悪くなる。
色系統 | 色名 | 顔料 | 軟化度 | 適温(℃) |
---|---|---|---|---|
白 | 白 | 亜砒酸、錫 | 700℃ | 800〜900 |
黄 | 黄、クリーム | クロム | 700℃ | 750〜850 |
緑 | 青芝、特青、オリーブ | 酸化銅 | 700℃ | 800〜850 |
朱赤 | 朱赤、赤橙、オレンジ | セレン朱 | 680℃ | 750〜800 |
桃 | 桃、特桃 | 金 | 700℃ | 750〜800 |
紺 | 空、濃空、紺 | 酸化コバルト | 700℃ | 800〜900 |
茶 | カバ茶、トビ茶 | チョコレート色素 | 700℃ | 800〜900 |
その他 | トルコ青、ウスグレー | トルコ色素 | 700℃ | 800〜900 |
銀用釉は銀素地に使うもの、銅用釉は銅素地に使うものと、勘違いして思い込んでいる人が沢山います。しかし、それは、正しくはありません。ほとんどの場合、銀素地に銅用釉を使っても、その逆でも、ちっとも差し支えはありません。
では、銀用、銅用の区別は一体何のためにされているのでしょうか。それは、「耐酸性の問題」です。
釉薬の性質の中で、屈折率を良くすることと耐酸性を高めることとは、決して両立しない相反する性質なのです。
屈折率を良くしようとすると必然的に耐酸性は弱くなるし、耐酸性を高めれば屈折率は落ちてしまうのです。従って、焼成しても酸化することのない銀素地の場合は「酸で洗う必要がない」ため耐酸性を抑えてその代わりに屈折率を良くしてありますし、酸化する銅素地の場合は、「酸洗いする必要が生じるため」に屈折率を犠牲にしても耐酸性を高めておく必要があるのです。ですから、私達が釉薬を選ぶ時に必要な注意は、「酸洗いをするかどうか」だけなのです。酸洗いする必要のある技法を使う時には、銀用釉は絶対に使わない、と、それだけ注意してくださればいいのです。
ただし例外もあります。それは、白透です。銀素地の上に銅用白透を用いると釉薬中の残留アルカリ分が銀と反応して淡い黄色の濁りを生じます。銀素地上で完全な透明を得るためには、銀用白透を使わなければなりません。
釉薬の中には、銀と化学反応を起こして変色してしまうものがあります.
上記の白透もそのひとつですが、その他に、中赤透などの赤系の色、桃透などのピンク系の色、橙透などのオレンジ系の色などです.また、金茶・ゴールドなどのような茶系の明るい色や、ゴールドブルーなど、温度によって又は焼成回数によって変色するものもあります.また、半透明色は銀と反応する色が多いようです.
これらの釉薬を銀に焼き付ける場合は、銀素地と釉薬が直接触れないようにしなければなりません.一旦、反応しない色釉薬を焼き付けた後に反応する色を上からかけて焼成します.例えば、銀用白透などをあらかじめ焼成して、その上から桃透などを盛り付けて焼成するわけです.
この場合、針の先程のピンホールが合っても化学反応は起こってしまうわけですから、下地は丁寧に作らなければなりません.
七宝は簡単な焼き物として普及しています。確かに素地が金属であるために、焼成時間も短く、徐冷しなくても割れる事もなく、そういった意味では初心者でもそれなりのものをその日の内に作り上げることができる手軽さがあります。
しかしそのために、逆に、知識を持たないままに取り組んでいる人も多いのが現実となっています。けれども当然七宝も焼き物であり、工芸である以上、火を通す事によって起きる化学変化、物理変化とは無縁ではいられません。
正しい知識を持つことが、よりよい作品作りへの第一歩となるはずです。
ここでは、最低限の釉薬に関する覚えておくべき事を述べてみました。正しい知識を身に付けることでそれぞれの作品世界がより広がりを見せる、そのための一助となれば幸いです。